「建築意見書作成、工事監理」鈴栄建築設計監理事務所
昔あったお話し・・・
住宅瑕疵の中でクレームとなり居住者から必ず修理を依頼される欠陥は
なんといっても雨漏りと構造的な欠陥です。これらの原因を発見することは非常に困難を極めます。
しかし、人間の体にもツボがあるように住宅にもツボがあります。 ツボをまず見極めて基本的な施工
手順をたどって
調べて行くと原因に到達することができます。
ここから先は私の経験や、聞いた出来事です。
その 1.
「地震でないのに、グラグラ揺れる家」
これは知り合いの建築士から聞いた話ですが、神奈川県のある市街地に
平成の中頃木造
3
階建ての一般的な建て売り住宅が建築されました。価格が手ごろなこともあって買主はすぐ見つかり完成と同時に住み始めました。住み始めてから半年位経過した頃ある異変に気付きました。強い風が吹くと建物が異常に揺れるのです。その他にもさまざまな欠陥や施工不良が発見されるようになりました。居住者の方は細かい不具合はその都度販売会社に連絡し修理をしてもらいましたが、建物が異常に揺れることに関しては原因がなかなか分かりません。そこで知り合いを通してある建築士の人を紹介してもらい、小屋裏、床下、壁を一部壊して詳しく見てもらい
ました。すると原因がしだいにわかってきたのです。
それは明らかに構造にかかわる木材を組立てる時に常識的な工事がおこなわれていなかったということでした。(分かりやすく言うとスジカイが
短く片方が固定されていない。図面に記載されている必要な構造金物が
取り付けられていない。釘やビスの本数が少ない等々。) 残念なことですが大工工事の際に必要なことをしっかりやっていなかったということです。それが故意に手を抜いたのか工事をした人にそれだけの知識がなかったのかは分かりま
せんが、大きな地震が来た時に危険な状態になる可能性は十分に考えられます。
このような状況に置かれ建物を修理して住み続けると決めた場合、まず
設計図面を探して大規模な修繕工事をしなければなりません。当然相当な費用がかかります。この現場は建築士と弁護士が協力して対応したそうです。欠陥住宅をなくすため平成21年「住宅瑕疵担保履行法」という法律が制定され、この法律に基づいて雨漏りと構造躯体の欠陥修理に保険を適用し欠陥を修理する際には保険が適用されるようになりました。建築途中の検査回数も増えかつ厳しくチェックするようになったので、以前のような居住者に取って悲惨な状況は少しずつ改善されて来ています。
その 2.
「広いリビングは、はたして吉か凶か?」
平成の中頃から東京、神奈川の準防火地域内を中心に木造3階建ての住宅が盛んに建てられるようになりました。土地の価格が高いのでそうせざるを得ないのですが一つ特徴があります。ほとんどの建物が2階にリビングとダイニングをもって来るということです。
理由は、部屋をできるだけ広くしようと考え途中柱も造らず広い空間を
望む施主が多いこと、設計士がデザインにこだわっていることです。注文建築だけでなく建て売り住宅もほとんどそのプランです。さらに階段を
アルミやスチール製にして手摺はガラスなどにする場合もあります。 当然そのわきにある壁も取り払います。確かに狭い空間を少しでも広く見せようとすればこの方法が良いかもしれませんが コストは上がります。
3階建てですので在来工法にしろ
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工法にしろ当然構造計算をおこないますが、そこに落とし穴が潜んでいるのです。誰が考えても途中に柱や壁がある建物と柱がなく広い空間のままの建物では、前者の方が「地震や風の揺れに対しては強いだろうな」ということは想像できますし実際その
通りです。法律に基づいて、作られた方程式の中で計算し許容範囲の中で合格すれば構造計算〇
K
と結論づけられます。
しかし、現実はどうでしょうか。コンピュータ入力するのは人間です。コンピュータは計算を間違える確率は非常に低いかもしれませんが、人間は生き物です。その時の体調や気分で入力すべき数字を間違える可能性は
十分に考えられます。さらに広い空間を無理やり確保するためにわざと間違って数字を入力する可能性もあるのです。(非常にまれですが。)
実際に建物に何らかの歪みや外壁に異常なクラック等の不具合が発生した時に建て主が販売会社や建築会社を訴えて裁判に持ち込んだとしたら
「リビングが広すぎるからそうだ」
と簡単には結論づけられません。建築の専門家が現場の状態や設計図構造図等を詳細に検討してからでないと結論は出ないのです。「このままでいると倒壊の危険がある」などと結論
づけられたら修繕するにも建て替えにしても多大な費用がかかってしまいます。
何を言いたいかといえば、コンピュータに頼り過ぎずに人の感や経験も
参考にするべきだということです。広いリビングは本来マンションのうたい文句です。程度にもよりますが私は広すぎるリビングは木造建築にはよくないと思っています。
マンションならいいかも・・・・
その 3.
「吹き抜けのある住宅」
住宅建築の場合通常建ててから1~2年の間には時々壁紙のひび割れやドアの縦付けが悪くなって開け閉めがかたくなったりするような簡単な不具合が発生することがありますが、夏と冬を何回か越すと建物を構成している主要部材である木材が乾燥し全体が安定して来るので不思議なことに以後大きな不具合は発生しなくなるものです。 (器具、機械類は別)
しかし、 大きな吹き抜けのある住宅に関してはこの定義が当てはまらない場合が多々あります。
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階建て住宅で一定規模以下の住宅であれば簡易的な構造チェックだけで確認申請は通るので 大きな吹き抜けがあってもマイナス要因にはなりません。しかし、そこに大きな落とし穴が出てきてしまうのです。
床や天井は水平方向の揺れに対して大きな強度を持っているので頼りがいのある存在です。たとえ地震だけでなく台風などで非常に強い風が吹いた場合にも効果を発揮します。しかし、それをみばえや解放感だけのために
なくしてしまったら計算上はOKでも実際の建物はその分弱くなって
しまいます。ですから、吹き抜けが多く壁の少ない建物は不具合が発生
する可能性が大変に多くなります。これを欠陥と呼ばずなぜ不具合と表現するのかというと、建物の みばえや満足感だけで家を設計してしまうという考え方があり本来の建物の重要性を認識しないで設計しているからです。
どんなに優秀な工務店が、どんなに丁寧な仕事を沢山の費用をかけて建物を造ったとしても残念ながら起きるべくして起きる可能性があるので、
欠陥ではなく不具合なのです。私個人的には天井は低めであまり広くない穴倉なような部屋が好きです。静かで、何となく落ち着いていて・・・・・。
素敵と安全は反比例‼
その4.
「この家はやばいな!」
私がずいぶん前に体験した話です。何年か前に神奈川県内のある振興住宅地に新築された家の不具合を相談され現地へ調査に行った時のことです。延べ床面積100㎡ほどの二階建て木造住宅で、デザイナー的な建築士に
依頼して建てた住宅だそうです。不具合といっても軽微なものばかりで
建物に悪影響を与えるような大きなものはありませんでしたが、依頼者から相談されなかった大きな 不安を発見しました。
それは、一階にあるリビングの天井が取り払われ二階の天井まで吹き抜けの状態に造られていること、そして南側に大きなアルミサッシ窓によって開口部が広くなっていることです。二階建ての住宅は正式な構造計算が
必要なく建築士の簡易チェックだけで確認申請が通りますので確認上は問題なかったのでしょうが、沢山の住宅建築に携わって来た者からして見ると直感で「この家は大きな地震の時は揺れがひどくて最悪倒壊する可能性が大きいな」と強く感じたしだいです。その件は大きな不安を煽るといけないので依頼者(居住者)には告げずに帰路に着きました。
その 5.
「火事場の判断は難しい!?」
私は今までに何回か火事を起こした後の建物の現場に遭遇したことがあります。弁護士や不動産会社・建築会社から頼まれての調査や犬の散歩中に中が丸焼けで窓があけっぱなしのマンション等様々です。また、修繕工事を受注したこともあります。
だいぶ前の体験です。東京
23
区内にある有名な商店街から少し入った住宅街、木造
3
階建て延べ床面積
100
㎡程度の普通の住宅。中へ入って見ると
1
階はさほど燃えた様子はないが水浸し。
2
階に上がって見るとキッチンがありその周囲が丸焦げ状態。
天ぷらをあげている最中にその場を離れてしまい油に引火したそうで良くあるケースです。
3
階も焼け方がひどく
黒こげ状態。保険会社の調査員が調べたが歯が立たず友人の弁護士が依頼されたようです。
この状況を考察してみると、
1
階
~3
階まで内外部共に消防による放水を
受けて水浸しなので
1
階の内装仕上げは
100%
修理が必要ですが、構造躯体は
20%
くらいの強度低下。
2
階
~3
階部、内装仕上げは当然
100%
修理が必要。構造躯体は
2
階
~3
階が平均で
40%
程度強度を失っている状態。 はたしてこの建物が修理で直せるのか、建て直さなければならないか
?
建て替えと修繕工事、どちらの方の費用が安く済むかというと
おおよそ
同じくらいではないかと判断しました。であれば建て替えしたほうが良いので、見積書を建築会社に依頼しその数字をもとに検討して保険金額を
支払うしかありません。弁護士に「これを建て替えたらいくら位かかるの」と聞かれたので「○○〇〇万円あれば十分だよ」と答えるとびっくり
して「何だ、もうすでに××××万円は支払ってしまった」という。
当然支払った金額は私の出した数字より多いのでした。
建物が火事になってしまった場合一番はじめに判断に困るのが修理で回復するのか、建て替えなければ住めないのかという問題です。小さな火事でも消防の水を全面的にかけられている場合の内装仕上げはほぼ
100%
使用
不
可能です
。
器具や機械類がどの程度損傷しているということも重要な要素です。経験と知識のある人が現場に行って状態を調べてみないことには何とも言えません。できれば、
家具や布団などの家財道具を片づけ
終わった時点で調べに行くのがベストです。理屈や計算で解決できない
のが火事場の難しさなのです。